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獣魔のあなたへ

#2

イロハの森は俗に「原初の森」と呼ばれる獣魔や瘴気の多い森だ。
魔素の濃度が濃く、一般人には危険な森として知られていた。

「あ、あれは…」

森の最深部にある「世界樹」に、瘴気がまとわりついている。
世界を支える精霊樹の一つ、世界樹が瘴気に堕ちれば、世界に歪みが生じてしまう。
これ以上獣魔が増えると、手に負えなくなってしまうだろう。

「あっ!世界樹が倒れる!!逃げろ!!!」

強い魔素が仇となり、世界樹は瘴気の手に堕ちてしまった。
赤黒い血のような瘴気は、あの日を思い出させる。足がすくんで、動けない。

「隊長ー!!」

先に避難していた巫女が私の手を引いた。わざわざ戻ってきてくれたのだった。

「早く逃げよう。死んじゃうよ」

その一言で目が覚めた。私はまだ死んではいけない。
巫女とともに世界樹から、瘴気から逃げる。

「世界樹を暴かないと!!この森が崩壊してしまう!!みんな、急いで切り倒すよ!」
「おう!!」

今度は態勢を整えて全員が刀を抜き、世界樹と瘴気を切り離していく。
腕がしびれ、隙あらば瘴気が襲い掛かってくる。気を抜くことはできない。

数時間かけて世界樹の核までたどり着いた。

核を壊し、世界樹を消し去らなければいけない。
剣を思い切り突き立てた。

世界樹が消えていく。
瘴気は居場所を失い、魔素に取り込まれて消えた。





無事に帰還した私たちはそこで解散した。
私は与えられている自室へ戻り、巫女も寮へと帰っていった。

湯船につかって汚れと疲れを流すと、報告書と対峙する。
たまっている報告書は3件分。ここ最近出動の回数が多い気がする…。


「たいちょー、例のブツもってきたぜぃ」

巫女には入室権限を与えてある。
なぜ与えたのか、おそらく気の迷いだろう。

例のブツというのは―

「今夜は祝杯だ!!」

キンキンに冷えたビール。樽型の魔法器具で冷やされた黄金の液体が、私の心を洗ってくれる。
巫女はデスクに置かれた報告書と資料の山を見て、うげっという顔をした。

「どんだけあるの報告書。ためすぎでしょ」
「うん、最近件数が多くて…」

仕事の話からプライベートへ。酔いが回り、ろれつは回らなくなる。
巫女は酒に強いのか、2杯、3杯とおかわりしていく。

「巫女」
「なに?隊長」
「んーん、別に」

酔いが回り、記憶が曖昧に…

「隊長飲みすぎ。いや、飲まれすぎだよー」
「うーーん」

私はあろうことか巫女に抱き着いているらしい。いい匂いがする。

「ねえ、もうそろそろ帰んないと締め出されちゃうよー。隊長、帰るよー?」
「まだ、まだ帰るなぁー」
「え?泊まらせてくれんの?」
「ん」
「珍し。いっつも帰れって怒鳴るのに」
[小文字]「寂しいから…」[/小文字]

「はぁー」というため息が聞こえる。観念したらしい。

「帰らない?」
「帰らないよー。だからちょっと離れ…」
「やった。じゃあ寝るね。片づけよろしくー」

二度目のため息を聴きながら、視界がブラックアウトした。

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作者メッセージ

3につづきます。

2024/06/22 16:29

月夜の番人(月乃彩) ID:≫upfsb/.p7ViyM
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