二次創作
集え、水禁学園!
〈匿名〉こと私は砂漠を練り歩いていた。まともに考えれば馬鹿な話である。学校という日の暑さを忘れさせるバリアーがありながら、わざわざそこを抜けて砂漠へ出たからだ。しかし後悔などある筈がなかった。皆は忘れているかもしれないし、そもそも言っていなかったかもしれないが、私は遺跡調査を生業としている。だから肌をジリジリと焦がす太陽も、歩きにくいこの砂も、少しばかり心許ない水分さえも、そんな私にとっては些細なことだった。しかし予想外なことが一つあった。そのお陰で心配の元であった水分の問題は解決されるのだけれど。
「キミは...どのサーシャ嬢だろうか?少なくとも私が共に過ごした彼女というわけではなさそうだが」
「あー、私はサーシャ......ってみんな同じだっけ。ほら、トビウオと一緒の」
「そうか、ありがとう。ではもう一つ質問させてもらおう」
私の言葉に示した彼女の反応は目で続きを促すことだけだった。私はそれに満足することにして、一番聞きたかったことを聞いた。
「何でついてきたんだい?」
「......誰にもついてきて欲しくなさそうだったから?」
「理由として破綻していると思われるが......」
ならついてこないで欲しかったのだが。何せその考えは当たっているのだから。正直言って私はこのタイプの人間は苦手だ。カリギュラ効果だったか。してはいけないことに興味をそそられるというのは人間の性なのだろう。私も小さい頃に何度も横を歩くこの少女と同じような考えで行動したものだった。思えば遺跡の調査だってその効果がどこか一端を担っていたのかもしれない。古代のものを発掘するのは何か許されざることのようにも思える。だから自分のことを棚に上げて彼女ばかりを責める気にもなれず、もう何も言うまいと心の中で一人呟くと、散策を再開する。
「そういえば君はなんで学校から出たの?」
「それも分からずについてきたのか君は......はぁ、私は遺跡を探しているんだよ」
サーシャ嬢は私の「遺跡」という言葉をリピートした。心なしか若干やる気がなさそうだった表情に光が差した気がした。単に太陽によるものかもしれないけれど。しかしどうやら自分の趣味に興味を持ってもらえるというのは嬉しいらしい。私は当初面倒臭いと思っていた筈だったが、嬉々として彼女の相手をしようとしていた。
「そう、遺跡だ。私はまさか皆が何のトリックもなくここへ飛ばされた訳ではないと疑っているんだよ」
「転移魔法じゃないの?」
「そうかもしれない。ただ、これだけ大規模な、更には別世界に飛ばすほどのものだ。人から生み出されるエネルギーだけでは足りないと考えた。とはいえ魔法について疎い私の理論に筋が通っているのかは定かでないが、どうだろう?」
「確かに君の言う通り、ここまでの規模のものは普通できない」
「つまり何か依代があってもいいと考えたんだよ。最悪遺跡でなくとも良い。何かしらの足掛かりを見つけたいんだよ」
こうして推測に推測を重ねることでパズルの外側を大まかに埋めていき、実際に見ることで完成させていく。この感覚が私はたまらなく好きだ。毎度のことだが、予想がぴったり当たっていた時などカチッと音が聞こえるようで、これだからやめられない。人の作るものというのは謎に溢れていて、美しい。自然とはまた違う美しさがある。
そうは言えど、つくづく思う。人間の作ったものも自然ではないのか、と。鳥が作った巣を見れば人々は自然であると口を揃えていうだろう。ならば人間によってコンクリートで固められた建物はどうだ。勿論それは人工物である。しかし、この鳥と人間にどれほどの違いがあろうか。あたかも人間が自然とは別のもののように振る舞うのは傲慢ではなかろうか。中学生くらいの頃に一度は考えそうなこと。それが今でも頭に巣食っている。
視線を彷徨わせて砂漠の隅々まで観察していたけれど、どうせ考えても分からない問いを自らに投げかけたことで忘れていたようだ。
「どうしたの、ぼーっとして」
だからサーシャ嬢に少し心配されて顔を覗き込まれた。こうしてみるとやはり似ている、というか違いが説明できない。それでも確かにそこにある差異が私に見つけろと主張する。ほぼ同じものから間違いを探す。彼女達に関してどれが正しくてどれが間違いだとかは存在しないのだが。
何とはなしに校舎を振り返ってみる。
「ん?」
「どうしたの?」
「あそこ、何か違わないか?」
私が指を向けたところにあるのは砂。サーシャ嬢は全く分からないというように肩をすくめると、もう一度目を凝らした。数十秒間そうしていたかと思うと、「あっ」と小さく声を上げた。そうか、気付いたか。私がそう思うよりも前に、彼女は水のアシストをつけながら走り出していた。
「なっ!?まだ確証はないが何か特殊なものかもしれない!ここは落ち着いてくれ!頼む!」
私の声は既に届いていないようだった。彼女に追いつける可能性は純粋に0%だが、それでも私は砂を蹴った。しゃがみ込むサーシャ嬢に追いついたのは彼女が到着して十数秒後のことだった。
「はあっはあっ......何も、してないかい?」
「うん、まだね」
「できればこれからも何もしないで欲しいのだが」
私が言い終わるよりも早く、ズボッと何かが沈み込む音がした。私は呆れた表情を隠そうとも思わず、苦笑いをしながら音のした方を向く。サーシャ嬢は何やら色の違う砂へと指を突っ込んでいた。
カチッ。音がした。これは私の中でピースがハマった音、ではない。単純にこの世界でなった音だ。それは私の推測が当たった証左でもあるし、これから何かが必ず起きることを示している。なんだかどうでも良くなってその場に座り込んだ。そうして砂へつけた両手には熱が伝わってきて、しかしそれだけではなかった。地から起こっている振動が腕を伝う。ゴゴゴゴゴゴ、と揺れは次第に大きくなり、地中から何かが近づいてくる感覚がする。私は動揺して動けずに、座り込んだままだった。サーシャ嬢は少し遠くに離れていた。私がやれやれと肩をすくめて、一度閉じた瞼を開いたのはかなりの高所でのことだった。
「どうなっているんだ......?」
声を張り上げないと届きそうにない距離。サーシャ嬢がこちらを見上げているのが辛うじて分かるくらいだ。これ、本当に降りられるのだろうか。不安に苛まれながらも、私の胸は高鳴っていた。何よりもこの発見に興奮していた。もしかしたら高所が怖いのもあるかもしれない。
「ほんと、君たちは何を発動させたのかな?」
「なっ!?」
恐る恐る下を見ていた時に、突然した声。さらに姿まで現れた。確実に私しかいなかった筈だったから、私は驚きに驚き、鳩が豆鉄砲どころかロケットランチャーくらいは食ってそうな顔をして、そのまま落ちた。
「ははっとんでもないアトラクションだ!」
そう強がってみたものの、段々速くなっていく落下に死を意識した。こうしてみると私が屋根に乗っていた建造物は、真っ黒な直方体をしているようだった。何の模様も彫られていないから、落下していることを分かりやすくするための比較対象が見当たらない。
「いやー、ごめんね?そこまで驚くと思ってなかったからさ」
先ほど聞こえた声がまた横でする。幼なげで高い声はその感じに似合わず、落ち着いた大人の雰囲気がした。そちらを慌てて見ると、学校で会ったことのない少女がバタバタと白衣をはためかせ、自信ありげに笑みを浮かべていた。彼女は黒い塊を伝いながら落下する。そして、もの凄い勢いで飛んできた。そして私をキャッチすると、光を吸い込む黒い壁に手を伸ばす。落下中にこんな左右に動けるものなのか?私達は光と共にその建造物に吸い込まれるようにして近づき、そして止まった。
「い、今のは?」
「この建物が磁気を持ってて良かったよ」
少女と私は砂へドサっと落ちる。正確には私だけ無様に砂へ倒れ、彼女は華麗に降り立った。冷や汗をかいたからだろうか。熱された砂も気持ち良く感じる。私が落ち着くのを待っているような少女は腕を組んで口をへの字に曲げていた。うつ伏せの状態で見上げた彼女の腰には金と銀の銃が左右についていた。私は知りすぎた男として処分されるのか...?
「で、これはどういうことかな?」
静かに上がった口元は表面だけ見れば微笑みに取れる。けれどそこには確かな威圧感があった。私とサーシャ嬢を黙って交互に見る少女。何歳なのだろう、と今思うことではないが気になるものは仕方がないから許して欲しい。私たちはお互いがお互いに責任を押し付け合うように視線をやる。この感じ、学生の頃経験した覚えがある。目配せするな、そう言われて余計に怒らせるのがオチである。だが今回はそうならず、暫くすると少女は腰に手を当て、ため息をひとつだけ吐いた。
「まあいいよ、ここには皆で入ろう。君たちはクラスメイトを呼んでおいて」
「ま、任せてください。ほら、行こう」
「うん、ちょっと反省」
「もう三割なんとかならないかい?」
私たちは得体の知れない大きな建物を背に、クラスメイトの元へと小走りで向かうことにした。
「キミは...どのサーシャ嬢だろうか?少なくとも私が共に過ごした彼女というわけではなさそうだが」
「あー、私はサーシャ......ってみんな同じだっけ。ほら、トビウオと一緒の」
「そうか、ありがとう。ではもう一つ質問させてもらおう」
私の言葉に示した彼女の反応は目で続きを促すことだけだった。私はそれに満足することにして、一番聞きたかったことを聞いた。
「何でついてきたんだい?」
「......誰にもついてきて欲しくなさそうだったから?」
「理由として破綻していると思われるが......」
ならついてこないで欲しかったのだが。何せその考えは当たっているのだから。正直言って私はこのタイプの人間は苦手だ。カリギュラ効果だったか。してはいけないことに興味をそそられるというのは人間の性なのだろう。私も小さい頃に何度も横を歩くこの少女と同じような考えで行動したものだった。思えば遺跡の調査だってその効果がどこか一端を担っていたのかもしれない。古代のものを発掘するのは何か許されざることのようにも思える。だから自分のことを棚に上げて彼女ばかりを責める気にもなれず、もう何も言うまいと心の中で一人呟くと、散策を再開する。
「そういえば君はなんで学校から出たの?」
「それも分からずについてきたのか君は......はぁ、私は遺跡を探しているんだよ」
サーシャ嬢は私の「遺跡」という言葉をリピートした。心なしか若干やる気がなさそうだった表情に光が差した気がした。単に太陽によるものかもしれないけれど。しかしどうやら自分の趣味に興味を持ってもらえるというのは嬉しいらしい。私は当初面倒臭いと思っていた筈だったが、嬉々として彼女の相手をしようとしていた。
「そう、遺跡だ。私はまさか皆が何のトリックもなくここへ飛ばされた訳ではないと疑っているんだよ」
「転移魔法じゃないの?」
「そうかもしれない。ただ、これだけ大規模な、更には別世界に飛ばすほどのものだ。人から生み出されるエネルギーだけでは足りないと考えた。とはいえ魔法について疎い私の理論に筋が通っているのかは定かでないが、どうだろう?」
「確かに君の言う通り、ここまでの規模のものは普通できない」
「つまり何か依代があってもいいと考えたんだよ。最悪遺跡でなくとも良い。何かしらの足掛かりを見つけたいんだよ」
こうして推測に推測を重ねることでパズルの外側を大まかに埋めていき、実際に見ることで完成させていく。この感覚が私はたまらなく好きだ。毎度のことだが、予想がぴったり当たっていた時などカチッと音が聞こえるようで、これだからやめられない。人の作るものというのは謎に溢れていて、美しい。自然とはまた違う美しさがある。
そうは言えど、つくづく思う。人間の作ったものも自然ではないのか、と。鳥が作った巣を見れば人々は自然であると口を揃えていうだろう。ならば人間によってコンクリートで固められた建物はどうだ。勿論それは人工物である。しかし、この鳥と人間にどれほどの違いがあろうか。あたかも人間が自然とは別のもののように振る舞うのは傲慢ではなかろうか。中学生くらいの頃に一度は考えそうなこと。それが今でも頭に巣食っている。
視線を彷徨わせて砂漠の隅々まで観察していたけれど、どうせ考えても分からない問いを自らに投げかけたことで忘れていたようだ。
「どうしたの、ぼーっとして」
だからサーシャ嬢に少し心配されて顔を覗き込まれた。こうしてみるとやはり似ている、というか違いが説明できない。それでも確かにそこにある差異が私に見つけろと主張する。ほぼ同じものから間違いを探す。彼女達に関してどれが正しくてどれが間違いだとかは存在しないのだが。
何とはなしに校舎を振り返ってみる。
「ん?」
「どうしたの?」
「あそこ、何か違わないか?」
私が指を向けたところにあるのは砂。サーシャ嬢は全く分からないというように肩をすくめると、もう一度目を凝らした。数十秒間そうしていたかと思うと、「あっ」と小さく声を上げた。そうか、気付いたか。私がそう思うよりも前に、彼女は水のアシストをつけながら走り出していた。
「なっ!?まだ確証はないが何か特殊なものかもしれない!ここは落ち着いてくれ!頼む!」
私の声は既に届いていないようだった。彼女に追いつける可能性は純粋に0%だが、それでも私は砂を蹴った。しゃがみ込むサーシャ嬢に追いついたのは彼女が到着して十数秒後のことだった。
「はあっはあっ......何も、してないかい?」
「うん、まだね」
「できればこれからも何もしないで欲しいのだが」
私が言い終わるよりも早く、ズボッと何かが沈み込む音がした。私は呆れた表情を隠そうとも思わず、苦笑いをしながら音のした方を向く。サーシャ嬢は何やら色の違う砂へと指を突っ込んでいた。
カチッ。音がした。これは私の中でピースがハマった音、ではない。単純にこの世界でなった音だ。それは私の推測が当たった証左でもあるし、これから何かが必ず起きることを示している。なんだかどうでも良くなってその場に座り込んだ。そうして砂へつけた両手には熱が伝わってきて、しかしそれだけではなかった。地から起こっている振動が腕を伝う。ゴゴゴゴゴゴ、と揺れは次第に大きくなり、地中から何かが近づいてくる感覚がする。私は動揺して動けずに、座り込んだままだった。サーシャ嬢は少し遠くに離れていた。私がやれやれと肩をすくめて、一度閉じた瞼を開いたのはかなりの高所でのことだった。
「どうなっているんだ......?」
声を張り上げないと届きそうにない距離。サーシャ嬢がこちらを見上げているのが辛うじて分かるくらいだ。これ、本当に降りられるのだろうか。不安に苛まれながらも、私の胸は高鳴っていた。何よりもこの発見に興奮していた。もしかしたら高所が怖いのもあるかもしれない。
「ほんと、君たちは何を発動させたのかな?」
「なっ!?」
恐る恐る下を見ていた時に、突然した声。さらに姿まで現れた。確実に私しかいなかった筈だったから、私は驚きに驚き、鳩が豆鉄砲どころかロケットランチャーくらいは食ってそうな顔をして、そのまま落ちた。
「ははっとんでもないアトラクションだ!」
そう強がってみたものの、段々速くなっていく落下に死を意識した。こうしてみると私が屋根に乗っていた建造物は、真っ黒な直方体をしているようだった。何の模様も彫られていないから、落下していることを分かりやすくするための比較対象が見当たらない。
「いやー、ごめんね?そこまで驚くと思ってなかったからさ」
先ほど聞こえた声がまた横でする。幼なげで高い声はその感じに似合わず、落ち着いた大人の雰囲気がした。そちらを慌てて見ると、学校で会ったことのない少女がバタバタと白衣をはためかせ、自信ありげに笑みを浮かべていた。彼女は黒い塊を伝いながら落下する。そして、もの凄い勢いで飛んできた。そして私をキャッチすると、光を吸い込む黒い壁に手を伸ばす。落下中にこんな左右に動けるものなのか?私達は光と共にその建造物に吸い込まれるようにして近づき、そして止まった。
「い、今のは?」
「この建物が磁気を持ってて良かったよ」
少女と私は砂へドサっと落ちる。正確には私だけ無様に砂へ倒れ、彼女は華麗に降り立った。冷や汗をかいたからだろうか。熱された砂も気持ち良く感じる。私が落ち着くのを待っているような少女は腕を組んで口をへの字に曲げていた。うつ伏せの状態で見上げた彼女の腰には金と銀の銃が左右についていた。私は知りすぎた男として処分されるのか...?
「で、これはどういうことかな?」
静かに上がった口元は表面だけ見れば微笑みに取れる。けれどそこには確かな威圧感があった。私とサーシャ嬢を黙って交互に見る少女。何歳なのだろう、と今思うことではないが気になるものは仕方がないから許して欲しい。私たちはお互いがお互いに責任を押し付け合うように視線をやる。この感じ、学生の頃経験した覚えがある。目配せするな、そう言われて余計に怒らせるのがオチである。だが今回はそうならず、暫くすると少女は腰に手を当て、ため息をひとつだけ吐いた。
「まあいいよ、ここには皆で入ろう。君たちはクラスメイトを呼んでおいて」
「ま、任せてください。ほら、行こう」
「うん、ちょっと反省」
「もう三割なんとかならないかい?」
私たちは得体の知れない大きな建物を背に、クラスメイトの元へと小走りで向かうことにした。