文字サイズ変更

二次創作
集え、水禁学園!

#13

実習訓練 Part2

「どんどん行くぞ、次はサーシャ・ウォーテルだな」
「はい」

 呼ばれたサーシャは静かに前に出ると、一寸の迷いもなく差し出す片手から鋭い水の銃を放つ。音もなくど真ん中を貫かれた的は、空いた穴から向こうの景色が見える。完璧であった筈なのだが、水城は何か不思議に思ったのか首を捻った。

「あれ?『穿て』とか『貫け』とか言わなくていいのか?」
「ええ、あれは気分が乗るから言っているんです」
「なんだそれ......」

 呆れた様子の水城に目もくれず、ヴェルダーは評価を入れる。

「安定しているし、威力も充分だな。特に言うことはない」
「ありがとうございます」

「ふっ...次は俺の番だな」

 やる気充分、右腕をブンブン回しながら位置につく水城は両手を銃の形に構える。片目を瞑ってガンマン気分を味わっているようだが、多分その行動は意味を持たない。だから

「早くしろ。時間がない」
「はい...すみません」

 注意を受けて苦笑いをしながらもう一度両手を構え直す。今度は目を瞑ることもせずに、指の先からテッポウウオの強化版と言ったような水が射出される。そしてそれは真っ直ぐに伸びて

「あ、あれー。おかしいなぁ...」

 思い切り横に逸れた。それは本人にとっては少々恥ずかしい結果ではあるが、失敗者が現れた事は周りの空気を弛緩させた。

「ようやく教えられる奴が現れて嬉しいぞ、ありがとうな」
「皮肉は止めてくださいよ...。直球に精度がダメダメと言ってくれた方がマシですよ」
「心からの言葉だがな」
「何かテンション上がってません?」

「じゃ、今度は私が」

 静かにそう言ったサーシャはトビウオの水槽を持つと、そこから水分を拝借して真っ直ぐに的に水を当てた。

「え、何でここから取るの?」
「......節約?」
「......」

 魚の表情を見分ける能力など誰も持っていない。だがそこには確かな憤りがあることを皆は悟った。

「トビウオ、お前はどうする?」
「やります」

 トビウオは水の中で燃え上がる感情をバネに何やら力を溜める。どんな魔法を使うのだろうかと期待する誰かがごくりと喉を鳴らす。すると、サーシャの抱えた水槽から飛んで行ったのは

「へ、君!?」

 目を丸くするサーシャの目にはトビウオ本人が飛んでいく姿が映る。水を纏いながら矢のように飛ぶ彼は、さながら大気圏に突入する岩石のようでもあった。そしてトビウオは少しもずれることなく的に突き刺さる。

「ダーツじゃん」「ダツじゃねぇか」

 ほぼ反射的に声を上げた丸山と水城の言葉はそれぞれ違うものなのに、期せずして被った。ダツダーツの精度は凄いが、その絵面にヴェルダーは苦笑した。

「正に捨て身だな。最終手段として磨いておけ」
「何ですか、僕に命を捨てさせるつもりですか?」

 サーシャに連れてきてもらったトビウオは少し不服そうに「なんでトビウオなの?マジで」と呟く。

 するとトビウオに続けて、クラスで異色を放つサーシャが地を這う。そこにはレジャーシートが敷かれていた。

「スライムって砂が付いたら面倒臭いもんね...」

 ゆっくりと進んでいくサーシャを見ながら蘭は一人で納得していた。そして丁度いい位置に着いたか、動きを止めるサーシャ。そのままじっと動かないサーシャを見ていると、彼女に変化が起きた。

 透き通った体がゼリーのようにプルプルと震えたかと思うと、人間の部位らしき物がその中で組み合わされていく。その工程は悍ましくグロテスクであり、血が出ている訳でもないのに皆は目を逸らした。そしてそこに現れたのは、澄んだ川が流れたような髪が伸びたサーシャだった。

「へへっ驚いた?」
「わ、ま、また一人、ボクが増えた...?」
「それよりその手に持った銃は...?」
「ちょっと、私の大変身をそれで纏めないでよ」

 キマの言う銃とはマシンガンのことであった。それを悠々と構えると、マシンガンの勢いに肩を大きく震わせながら銃を乱射した。

「え、何それずるい」
「へへ、数打ちゃ当たるってね」

 的は蜂の巣のように穴だらけになり、そこから煙が立ち昇っている。ヴェルダーは頭を掻きながら言う。

「マシンガンは力があれば基本使えるからな。授業の時は違うのを使ってくれ」
「分かりましたー」

「じゃ、私もいっくよー!...って水が。誰か出してよ」
「ああ、ではこれを使ってください」
「おおっありがと」

 そういうサーシャの手には水槽が乗っていた。

「だからなんで僕の水槽なの?それにティアラさんも遠慮して?ねえ二人とも、聞いてよ」

 そんなトビウオの願いは叶わず、ティアラは水槽から水を拝借する。といっても返す予定などありはしないが。ビューンッと上へ向けて放った水は遠くの的を縦に割る。

「そうだな、狙った方へ当てられたのはいいが、上へ撃つほど当たるまでに時間が掛かるからな。いかに相手に攻撃するか、それを磨くといい」
「了解!」

 ピシッと敬礼するティアラにヴェルダーは笑みをこぼした。

「つ、次は私かなぁ...?」
「大丈夫、教えた通り」
「...うん!」

 サーシャはこの場の誰よりも小さい手を伸ばす。ヨウから教わったことを頭に浮かべると、覚悟を決めた。放たれた水の球はその形を揺らしながらも飛んでいく。スピードが足りないのか、今にも落ちてしまいそうだ。それでもサーシャは諦める事はない。効果があるのかは分からないが、めいっぱい力を加えようと球の方へと踏ん張るサーシャは微笑ましい。

 パシャリ。数秒かけて届いた水は的を濡らすに至った。攻撃力があるようには見えないが、その頑張りを否定するわけにもいかず、ヴェルダーは頭を悩ませる。

「あー...コントロールはいいな。そんで威力をもうちょっと上げられたら良いと思うぞ」
「おじさん、私...ダメだったの?」
「や、違う、ダメじゃない。後俺はおじさんじゃない。その年なら十分相対的に優秀だろう。これからも励め」
「私が10歳くらいの頃には既にあんな的、余裕でしたけどね」
「おいサーシャやめてくれ」

 水城はかなり焦った様子で、水を差す発言をするサーシャを宥める。幸い周りに聞こえていなかったようで、誰も二人の方を見ていない。水城はふう、と胸を撫で下ろして思う。サーシャ、負けず嫌いなのかな。

「じゃあ次は...」
「僕は、いい」
「でもなぁ」
「僕の戦い方とは違う」
「OK、分かった。なら次に行こう」  

「どうやらボクたちの出番が回ってきたようだね」
「私もいくらか緊張しているよ。こんな広大な砂漠だ、遺跡でも探したいものだけれどね。それは今度に回そう」
「無駄なことをペラペラとよく喋るね、君は」
「おっと、この世の会話は宇宙的に広い観点から見れば、どれも無駄に等しいと思うけれどね。ともすればこの砂漠からしても。だからこそ今という平面的時間に拘らず、時代の積み重ね、つまり立体的時間を求めて遺跡を探すというのはより有意義なことだと言えるよ」

 緊張しているという言葉とは真逆に、寧ろ楽しそうにも見える《匿名》を少し白けた目で見るサーシャ。何かを諦めたか、サーシャはため息を吐くと、しなやかな手を的へ向けた。そのまま彼女の手から伸びるようにして現れた複数の水。まるでスライムのように固まって見えるそれは、次々に背を伸ばして炸裂した。

「あえて周りと違う方法で...サーシャ嬢、捻くれてるね」
「違うよ、ずっと同じ攻撃じゃ飽きるだろうと思ったボクの粋な計らいだよ」
「そうか。で、ちなみに魔法はどう使うんだい?」
「あー、ごめん。頑張って」
「教えてくれないのか...まあ自力でやるさ」

 イメージトレーニングでもしているのだろうか、深く意識の中へ潜り込んだようにも見える《匿名》。何秒間そうしていただろうか。タイミングがあったのか、彼は目をぱっと開き、狙撃銃を構えた。

「いや銃使うのかよっ!」

 反射的に突っ込んでしまう宮沢を横目に、引き金を引く《匿名》。パアァァン!という破裂音に、幼いサーシャは小さい体を更に縮こまらせて耳を塞ぐ。その時には既に的の左下辺りに穴が空いていた。

「おや、当たったようだ」
「自分でも驚いていることから分かるだろうが、多分偶然だ。偶然とはいえ、一度当てたのは事実だから素質はあるということだな」
「お褒めに預かり光栄の至りです」

 大仰に礼をする《匿名》にヴェルダーはどうして良いか分からず困った表情を見せる。そんな彼を助けるように雨傘が声を上げた。

「もうすぐ終わりだな。じゃあ俺がバシッと真ん中を撃ち抜いてやるぞ」
「頑張ってください、ハヤアキ」

 雨傘はデュランハルを鞘から抜いて片手に持つと、右足を後ろへ引いた。そして大きく振りかぶると、まさに達人技。何のブレもなく、まるで敷かれたレールを走るような正確さに皆は目を大きく見開く。空気を切り分け切り分け進むデュランハルはど真ん中に突き刺さった。

「「すっご!!!」」
「ああ、完璧だな...と言いたいところだが、あの剣を持てば誰でもああできるんだろう?最早インチキだと思うが」
「いいじゃないですか、どうせデュランハル以外使わないんだし」

 言いながらデュランハルを拾いに走っていく雨傘を見ながら、サーシャが手を太陽に翳す。それを勢いよく振り下ろすと

「(アクアショットガン)」

 心の中でそう念じて、水の散弾を放った。遠くでは雨傘デュランハルを拾い上げていた。真横で魔法が浴びせられているのに驚き、その場を飛び退いたのが見える。

「危ないだろ!」
「いえ、当たる確率は0.00%でしたよ」
「有効数字だろ、それ。何、ノンアルなの?純粋な0%になってから撃ってくれよ」
「おい、もう二時間目も終わる。最後の二人も済ましてしまおう」

「あの、私全然技術ないし、的を近づけてもらってもいいですか?」
「そうか、他が優秀すぎて感覚が狂っていたかもしれんな」
「あ、じゃあボクが先にやります」
「分かった。パパッとな」

「では...行きます!ボクは水魔法に誇りを持っていますから!」

 生成した水の刃が回転しながら進んでいく。辺りの空気を掻き混ぜるようにして回る水の鋭さ、それはすぐに分かった。スパァァン!という擬音が最適だろう。刃は的を切った後も止まることなく、盛り上がった砂に当たることで消失した。

「どうですか、ボクの水魔法!」
「凄い、けど...正直飽きた、かも」
「そんなぁ〜っ!ボクを捨てないでください〜っ!」
「うわ、めんどくさっ」 

「もう二回目のチャイムが鳴るぞ。お前が最後だぞ、流水」
「は、はい」

 私が大トリとかふざけてるのかな。失敗したのって水城さんだけでしょ?それでも外しただけで威力はあった。今の私はどうだ。拳銃で、更に的を近づけてもらって。おいこれ詰んでる?目をぐるぐるさせながらも何とか前を向く。

「え?距離ほんとに変わってる?」
「ああ、5mは近付けたぞ」
「マジですか」
「マジだ」

 えーっと、どうしようか。中々定まらない照準。これは動揺からくるものだろうか。片目を瞑ってみたり、片膝ついてみたりして見たものの、あまり思うような効果は得られない。結局両手で拳銃を構え直す。その時、チャイムが鳴った。

「うわっ」

 驚いたことで込められた力は、引き金を引いた。間抜けな過程とは無関係に鋭い音が響く。その弾は偶然も偶然、的に命中したのであった。

「うぇ、なんか当たった?」
「凄いですよ、ラン!」
「素直に喜べないな...」

 サーシャと蘭がそんなやりとりをしており、皆も自身の実力を確かめることができたか、爽やかな表情だ。そんな中一人だけ、肩を落とす者がいた。

「え、外したの......俺だけ?」
「ですね。全く、同じ世界から来た者として恥ずかしいばかりです」
「いや慰めてくれよ」

 こうして、二時間使った命中力の確認は終わったのだった。

「俺が教えること、あるんだろうか」

 思い思いのペースで帰っていく生徒達の背中を見ながら、ヴェルダーはそう言って空を見上げた。ギラギラとした太陽が、そのエネルギーを遺憾なく発散している。ヴェルダーはそれに目を細めると、背中の小さくなった生徒たちと同じ方向へと足を踏み出した。

作者メッセージ

 13話投稿しました、なみなです。
 命中力確認の授業、これだけじゃ二時間も使わないよな...?と思いましたので、一人一人終わるごとにめちゃくちゃお喋りしたことにしましょう。これで解決です。
 最近気が付いたのですが、あとがきって見返すとかなり恥ずかしいものですね。自我を出そうとしている感があって。くぅ〜疲れましたw みたいな感じにならないか心配です。まあこれにて完結しないので、これからもお願いします。本文と関係ない話ですみません。
 それではっ

2025/02/15 23:29

なみな ID:≫6tXvJECw1ojHQ
続きを執筆
小説を編集

パスワードをおぼえている場合はご自分で小説を削除してください。(削除方法
自分で削除するのは面倒くさい、忍びない、自分の責任にしたくない、などの理由で削除を依頼するのは絶対におやめください。

→本当に小説のパスワードを忘れてしまった
▼小説の削除を依頼する

小説削除依頼フォーム

お名前 ※必須
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
削除の理由 ※必須

なぜこの小説の削除を依頼したいですか

ご自分で投稿した小説ですか? ※必須

この小説は、あなたが投稿した小説で間違いありませんか?

削除後に復旧はできません※必須

削除したあとに復旧はできません。クレームも受け付けません。

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL
/ 14

コメント
[14]

小説通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

※できるだけ具体的に記入してください。
特に盗作投稿については、どういった部分が元作品と類似しているかを具体的にお伝え下さい。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL