二次創作
集え、水禁学園!
転校生の女生徒二人が、イングリットの立っていた場所まで歩く。皆が彼女達を見ている間に傍に逸れていたイングリットが黒板に彼女らの名前を書く。
「ほい、二人とも。自己紹介だよー。名前をセイセイッ」
「あ、はい。えーっと日本から来ました、でいいのかな?まあいいや、流水蘭です。よろしくお願いします」
「サーシャです。お願いします」
サーシャは皆に挨拶している筈なのに、意識は蘭の方へ向いているように見える。以前のイングリットの言葉と、やたら距離の近い二人の様子から、やはりここにいる皆と比べると全くもって健全な関係性という訳でもないことが窺える。蘭は蘭で少々戸惑いながらも、どこか満更でもなさそうな表情が見え隠れしていて、お互いに気を許し合っているのだろう。彼らはそれぞれがまた違った関係性を築いている事は理解している。よってサーシャとの関係においてマイナス方面に口出しをするような考えを持つ者は一人もいなかった。誰も何も言わないのを見て、イングリットは二人を見る。
「二人の席はあそこだよ」
言って指を鳴らすと、机が二つ、まるで初めからそこにあったかのように現れた。イングリットは自分でやったことの筈なのに、自分の手を驚いた様子でまじまじと見つめる。
「うっわ本当に出てきた。何これ私が凄いみたい」
「いや先生が出したんじゃないんですか...?」
「違うよ、先生は言われた通りにやっただけなんだよ」
呆れたように笑う蘭は、イングリットに促された通りに自席へと歩いて行き、サーシャを手招きする。それにほっとしたような笑みを浮かべたサーシャは小走りで向かう。水城とサーシャは後ろの席の二人に軽く会釈した。
「よし!んじゃ......っと雨傘少年、どうしたんだい?」
「いや、転校生の自己紹介のついでって言ったらあれですけど、俺も紹介すべき奴がいまして」
「ほう、言ってみたまえ」
「コイツ自身は俺としか喋れないんで、他との会話は今できそうにないんですけどね。名前はデュランハルです。『よろしく』とのことです」
「私も直接デュランハルと話せたらいいんですけど」
そう言って雨傘がカバンから取り出したのは騎士剣だった。皆、少し驚きを見せたが、しかし先にトビウオを見せられていては耐性が付いていたようだ。男子諸君がカッケェ...と目を輝かせる。
「うんうん、デュランハルね。よろしく。よし!...って今度は何だ、水城少年?」
再度イングリットの言葉は遮られ、水城が手を挙げていた。
「俺からも一つ」
何かカバンを開けて呟いたと思えば、そこからは小さな羽の生えた、可愛らしい妖精が現れた。黒いドレスを着こなしていて、明るい緑色のソックスが目に眩しい。そしてその場でくるっとターンすると、華麗にお辞儀した。
「ボクはウスハだよっ!よろしくねー」
元気な声が皆の警戒を解き、雰囲気が和やかになる。そこで目をキラキラさせて、思わず立ち上がって近付いて来たのは幼いサーシャだった。突然椅子から降りたサーシャを引き留めようとするヨウだったが、その好奇心を夜空に瞬く星のように輝かせるサーシャを見て、伸ばした手を下ろした。
「ウスハは妖精?」
くいっと小首を傾げる仕草に口元が弛みそうになる水城だったが、自分はロリコンではないと言い聞かせて、優しい声音を作った。
「うーん、そう見えるけどなぁ、ウスハはトン...」
後に続く筈であったトンボという言葉は、横にいたサーシャに口を塞がれることによって発されることはなかった。何するんだよ、ともがく水城には構わず、サーシャは自分の幼い頃そのままのサーシャに柔和な笑みをこぼした。
「そうですよ。ウスハは妖精なんです」
「やっぱり!」
自分の期待通りだったのが嬉しかったのか、その場で背伸びするサーシャは教室にいる者全てをほんわか気分へと誘う。
そんなクラスメイトを尻目にサーシャは水城を睨んだ。
「子供の夢を壊さないでください、水城さん。壊しますよ」
「それは、そうだな、気をつけるよ。...いや壊すってなんだよ怖えよ!」
一箇所だけ物騒な雰囲気を醸し出していることにも気付かず、皆はがやがやしている。それを見てイングリットはふっと息を吐くと、手を叩いた。
「もう何かあるやつはいないなー?先生喋ってOK?」
誰も反応を示さないのを肯定と受け取ったか、そのまま話し始めるイングリット。
「転校生といってもみんな同じようなもんだし、名前だけだからね。んで、ここは学校だからな。当然授業があるわけなのですよ、君たち。気を抜かずに背筋をピンとはっていきたまえ!はい、朝のホームルーム終わり!」
生徒と仲良くなりそうなタイプの教師だな、と殆どの生徒は思った。颯爽と教室を出ていくイングリットの背中を追いながら、丸山は疑問を口にした。
「授業って何するんだろな。俺たち教科書もないし」
「寮でのご、ご飯みたいに机からでるんじゃ、ない?」
「あ、そうそう。それはいいとして、結局宮沢はガヴディーネさんのはだ...」
「な、何、言ってるの丸山っ」
コツンと全く痛くない拳を頭に食らった丸山は、頭をさすりながらも反省の色は見せない。その面白がったような瞳から逃げるように、教室の外へ視線をやる宮沢は何かに気付き、大げさに声を上げる。
「あ、あーっ!誰か来てるぞー?」
「ほ、ほんとですー!きょ、教師でしょうか?」
話を逸らそうとしている感じがひしひしと伝わってくるが、丸山はそれに反応して、彼らと同じ方を向く。すると廊下をカツカツと音を鳴らす、藍色の髪に髭を生やした男がいた。少し乱暴に扉が開けられると、その30、40代くらいの男は教室に入ることもせずに言った。
「授業を始める。外に出るからついてこい」
ぶっきらぼうに発された声が教室に響くと、男は生徒を待つこともせず歩き始めた。男の背にはライフルが掛けられていた。雨傘とサーシャの知り合いなのだろう。彼らはその男にすぐ着いていく。他の皆も戸惑いながらもぞろぞろと廊下へと出ていく。男について行った先は、皆が転移して最初にいた場所。砂漠だった。男はある程度歩くと足を止めて、こちらを振り返った。
「このくらいでいいか...。よし、お前ら。今から魔法でも武器でも何でもいい、練習してその命中力を上げるぞ。オレはネレイデスから派遣された王国騎士団所属のヴェルダー・モシンナガンだ。基本戦闘に関しての授業を行う。よろしくな」
ヴェルダーと名乗った男はライフルを手に取ると、弾を込める動作もしていないのに発砲した。広い砂漠にパンッ!と短い音が鳴り、数十メートル先にいた小さめの獣を撃ち抜いた。ヴェルダーはライフルを自分の肩に乗せると、挑発的な表情で生徒達を見渡す。
「お前らにはこれくらいはできるようになってもらおうか」
「「えー...」」
無理だろう、と言ったふうに声を出す皆にヴェルダーは容赦なく言う。
「お前らも生き残りたいだろう?そんなひ弱で元の世界に帰れたとして、どうするんだ。絶対に死ぬぞ」
少し空気が重くなる、そんな中一人、いや一匹が質問をした。
「いや命中とか以前に僕はどうするんですか?もう絶対に死ぬじゃないですか」
トビウオが悲しそうに水面へと気泡を吐く。数秒にも満たない時間で割れる気泡はどこか儚げだ。これにはヴェルダーも困った様子を見せる。
「ん...、魚なのか?魔法を使えない奴は魔道具でも、と思ったんだがなぁ...」
そして深刻そうな表情で目を閉じると、重々しく告げた。
「仕方がない。死を受け入れろ」
「諦められたっ!?」
「流石に私が守りますから。もしできることがあれば当然自分でやってもらいますけど」
安心させるように言うサーシャだが、この姿になった元凶であるために、いい人...!とはならない。
「じゃあ手始めに、あそこに用意した的を撃ってもらおうか」
20mほど先に、ダーツに使うのと同じ的が設置されていた。絶望的な顔をする者に自信満々に肩を回す者、異世界での戦闘経験がバレそうな授業だな、などと思う戦闘経験ゼロのトビウオだった。
「ほい、二人とも。自己紹介だよー。名前をセイセイッ」
「あ、はい。えーっと日本から来ました、でいいのかな?まあいいや、流水蘭です。よろしくお願いします」
「サーシャです。お願いします」
サーシャは皆に挨拶している筈なのに、意識は蘭の方へ向いているように見える。以前のイングリットの言葉と、やたら距離の近い二人の様子から、やはりここにいる皆と比べると全くもって健全な関係性という訳でもないことが窺える。蘭は蘭で少々戸惑いながらも、どこか満更でもなさそうな表情が見え隠れしていて、お互いに気を許し合っているのだろう。彼らはそれぞれがまた違った関係性を築いている事は理解している。よってサーシャとの関係においてマイナス方面に口出しをするような考えを持つ者は一人もいなかった。誰も何も言わないのを見て、イングリットは二人を見る。
「二人の席はあそこだよ」
言って指を鳴らすと、机が二つ、まるで初めからそこにあったかのように現れた。イングリットは自分でやったことの筈なのに、自分の手を驚いた様子でまじまじと見つめる。
「うっわ本当に出てきた。何これ私が凄いみたい」
「いや先生が出したんじゃないんですか...?」
「違うよ、先生は言われた通りにやっただけなんだよ」
呆れたように笑う蘭は、イングリットに促された通りに自席へと歩いて行き、サーシャを手招きする。それにほっとしたような笑みを浮かべたサーシャは小走りで向かう。水城とサーシャは後ろの席の二人に軽く会釈した。
「よし!んじゃ......っと雨傘少年、どうしたんだい?」
「いや、転校生の自己紹介のついでって言ったらあれですけど、俺も紹介すべき奴がいまして」
「ほう、言ってみたまえ」
「コイツ自身は俺としか喋れないんで、他との会話は今できそうにないんですけどね。名前はデュランハルです。『よろしく』とのことです」
「私も直接デュランハルと話せたらいいんですけど」
そう言って雨傘がカバンから取り出したのは騎士剣だった。皆、少し驚きを見せたが、しかし先にトビウオを見せられていては耐性が付いていたようだ。男子諸君がカッケェ...と目を輝かせる。
「うんうん、デュランハルね。よろしく。よし!...って今度は何だ、水城少年?」
再度イングリットの言葉は遮られ、水城が手を挙げていた。
「俺からも一つ」
何かカバンを開けて呟いたと思えば、そこからは小さな羽の生えた、可愛らしい妖精が現れた。黒いドレスを着こなしていて、明るい緑色のソックスが目に眩しい。そしてその場でくるっとターンすると、華麗にお辞儀した。
「ボクはウスハだよっ!よろしくねー」
元気な声が皆の警戒を解き、雰囲気が和やかになる。そこで目をキラキラさせて、思わず立ち上がって近付いて来たのは幼いサーシャだった。突然椅子から降りたサーシャを引き留めようとするヨウだったが、その好奇心を夜空に瞬く星のように輝かせるサーシャを見て、伸ばした手を下ろした。
「ウスハは妖精?」
くいっと小首を傾げる仕草に口元が弛みそうになる水城だったが、自分はロリコンではないと言い聞かせて、優しい声音を作った。
「うーん、そう見えるけどなぁ、ウスハはトン...」
後に続く筈であったトンボという言葉は、横にいたサーシャに口を塞がれることによって発されることはなかった。何するんだよ、ともがく水城には構わず、サーシャは自分の幼い頃そのままのサーシャに柔和な笑みをこぼした。
「そうですよ。ウスハは妖精なんです」
「やっぱり!」
自分の期待通りだったのが嬉しかったのか、その場で背伸びするサーシャは教室にいる者全てをほんわか気分へと誘う。
そんなクラスメイトを尻目にサーシャは水城を睨んだ。
「子供の夢を壊さないでください、水城さん。壊しますよ」
「それは、そうだな、気をつけるよ。...いや壊すってなんだよ怖えよ!」
一箇所だけ物騒な雰囲気を醸し出していることにも気付かず、皆はがやがやしている。それを見てイングリットはふっと息を吐くと、手を叩いた。
「もう何かあるやつはいないなー?先生喋ってOK?」
誰も反応を示さないのを肯定と受け取ったか、そのまま話し始めるイングリット。
「転校生といってもみんな同じようなもんだし、名前だけだからね。んで、ここは学校だからな。当然授業があるわけなのですよ、君たち。気を抜かずに背筋をピンとはっていきたまえ!はい、朝のホームルーム終わり!」
生徒と仲良くなりそうなタイプの教師だな、と殆どの生徒は思った。颯爽と教室を出ていくイングリットの背中を追いながら、丸山は疑問を口にした。
「授業って何するんだろな。俺たち教科書もないし」
「寮でのご、ご飯みたいに机からでるんじゃ、ない?」
「あ、そうそう。それはいいとして、結局宮沢はガヴディーネさんのはだ...」
「な、何、言ってるの丸山っ」
コツンと全く痛くない拳を頭に食らった丸山は、頭をさすりながらも反省の色は見せない。その面白がったような瞳から逃げるように、教室の外へ視線をやる宮沢は何かに気付き、大げさに声を上げる。
「あ、あーっ!誰か来てるぞー?」
「ほ、ほんとですー!きょ、教師でしょうか?」
話を逸らそうとしている感じがひしひしと伝わってくるが、丸山はそれに反応して、彼らと同じ方を向く。すると廊下をカツカツと音を鳴らす、藍色の髪に髭を生やした男がいた。少し乱暴に扉が開けられると、その30、40代くらいの男は教室に入ることもせずに言った。
「授業を始める。外に出るからついてこい」
ぶっきらぼうに発された声が教室に響くと、男は生徒を待つこともせず歩き始めた。男の背にはライフルが掛けられていた。雨傘とサーシャの知り合いなのだろう。彼らはその男にすぐ着いていく。他の皆も戸惑いながらもぞろぞろと廊下へと出ていく。男について行った先は、皆が転移して最初にいた場所。砂漠だった。男はある程度歩くと足を止めて、こちらを振り返った。
「このくらいでいいか...。よし、お前ら。今から魔法でも武器でも何でもいい、練習してその命中力を上げるぞ。オレはネレイデスから派遣された王国騎士団所属のヴェルダー・モシンナガンだ。基本戦闘に関しての授業を行う。よろしくな」
ヴェルダーと名乗った男はライフルを手に取ると、弾を込める動作もしていないのに発砲した。広い砂漠にパンッ!と短い音が鳴り、数十メートル先にいた小さめの獣を撃ち抜いた。ヴェルダーはライフルを自分の肩に乗せると、挑発的な表情で生徒達を見渡す。
「お前らにはこれくらいはできるようになってもらおうか」
「「えー...」」
無理だろう、と言ったふうに声を出す皆にヴェルダーは容赦なく言う。
「お前らも生き残りたいだろう?そんなひ弱で元の世界に帰れたとして、どうするんだ。絶対に死ぬぞ」
少し空気が重くなる、そんな中一人、いや一匹が質問をした。
「いや命中とか以前に僕はどうするんですか?もう絶対に死ぬじゃないですか」
トビウオが悲しそうに水面へと気泡を吐く。数秒にも満たない時間で割れる気泡はどこか儚げだ。これにはヴェルダーも困った様子を見せる。
「ん...、魚なのか?魔法を使えない奴は魔道具でも、と思ったんだがなぁ...」
そして深刻そうな表情で目を閉じると、重々しく告げた。
「仕方がない。死を受け入れろ」
「諦められたっ!?」
「流石に私が守りますから。もしできることがあれば当然自分でやってもらいますけど」
安心させるように言うサーシャだが、この姿になった元凶であるために、いい人...!とはならない。
「じゃあ手始めに、あそこに用意した的を撃ってもらおうか」
20mほど先に、ダーツに使うのと同じ的が設置されていた。絶望的な顔をする者に自信満々に肩を回す者、異世界での戦闘経験がバレそうな授業だな、などと思う戦闘経験ゼロのトビウオだった。