文字サイズ変更

赦して。

#1


「フータ君、いま居る?」
「……んだよ」
第一審の時よりも、弱々しくて、可哀想。
今のフータ君を最初に見た時、私の心は、そう思った。
「もうちょっとでご飯の時間だよ、今日は来れる?」
「……無理そうだ」
「そう、じゃあ、部屋まで持ってくる?」
「いらねぇ…」
「…分かった。ご飯食べ終わったら、また来るからね。また後でね」
フータ君は、元気のない声で「おう」とだけ言った。

[水平線]
「あ、あの」
「どうしたの?ハルカ君」
「フータ君…今日も来れないんですか?」
「うん…やっぱり、元気がないみたい」
ハルカ君は、フータ君をいつも心配してる。第一審でお世話になったから、なのかな。
「でも、心配しなくて大丈夫だよ。フータ君は、私がどうにかしちゃうから。ハルカ君は、ムウちゃんとね」
「ムウ、さん……はい」
私が笑顔でなにか言うと、ハルカ君はすぐにうなずいて、了解してくれる。特に、フータ君とムウちゃん絡みだと、本当にすぐに。疑うことが基本ないので、いつもすごく助かってる。
「あ、ほらハルカ君。ムウちゃん来たよ。一緒に食事したらどう?」
「はい、ありがとう、ございます」
ムウちゃんのところに駆け寄ってくハルカ君は、私からしたらいつにも増して、純粋な子供みたいに見えた。まぁ、見えただけだと思うんだけどね?

[水平線]
その後は、ミコトさんやシドウさんとも話した。
大体「フータ君は大丈夫か、何か変化はないか」みたいな内容だったので、私はずっと
「ええ、大丈夫ですよ。私がきっちり見てますから」
と答えた。大体は事実だし、今の本当のフータ君を見てるのは、私しかいない。だから、こういう質問に答えるのは、すごく簡単なんだ。
「フータ君、少しお話とかしようよ。開けてくれるかな?」
ご飯はさっき終わって、私はフータ君がいる独房の前で立っている。
私が「話そう」と言うと、フータ君はいつも、すぐに鉄格子を開けてくれる。今はすっごく悲しくて、つらい気持ちのはずなのに、ありがたいなぁ。
「……サラ」
捨て犬みたいに、弱々しく私の名前を呼ぶフータ君。やっぱり、愛しくてたまらなかった。
「入っていいかな?」
「…」
黙って私を部屋に入れようとする仕草は、私のすべてを受け入れてくれたみたいだった。嬉しいなとは思うけど、やっぱり、ちょっと怖い思想なのかな?
「フータ君、最近はどう?調子は大丈夫かな」
「……変わんねぇよ」
「そう。食欲は、やっぱりないかな?そろそろご飯食べてくれないと、私も少し心配だよ」
「ねぇよ…、てか、お前に心配されたところで……」
少し強いような口を叩くフータ君。こんなこと言っちゃってるけど、私は分かってる。フータ君って本当は、自分を強く見せたいだけなんだ。自立できるって、思わせたいだけなんだ。
そんなフータ君に合わせて、私はいつも「ごめんね」って言う。
「そっか、余計なお世話だね、ごめんね」
「…おう…」
バツが悪そうに返事するフータ君。目にはクマがあった。前はあんまり無かったし、昨日は、眠れなかったのかな?
「あ。フータ君、目にクマがあるよ。眠れなかった?」
「……」
「ねぇねぇ」
「………」
「どうしたの、フータ君。無理しなくてもいいけど、答えて?」
控えめにそう言うと、フータ君はいきなり、私に抱きついてきた。
「えっと、フータ君…?」
「…サラ…」
一生離してくれないのかって思うほどに、フータ君は深く、重く抱きついてくれた。
「どうしたの?不安?」
「…うん…」
小さくうなずくフータ君は、いつもよりもすごく可愛く、悲しく、小さく見えた。なんだか、子どもみたい。
「よしよし、大丈夫だよ。安心してね」
すごく可愛そうだったので、頭を撫でてあげる。するとフータ君は、さらに私の胸に顔をうずめて、安心したような息をつく。
あぁ、可愛いなぁ。
このまま大切にしようか、それとも、突き放して絶望させてあげようか、なんて選択肢が、頭に浮かんでくる。
正直なことを言うと、私はフータ君に依存してるんだと思う。
でもそれはフータ君も同じ。いわゆる、共依存ってやつ?
これを「まずい」とは思わない。だって、自分からこれを、望んだから。
フータ君も、私と一緒にいることを望んでる。だから、後悔してないし、私は今すっごく幸せ。
「なぁ、サラ」
「なぁに?」
「ずっと居てくれ」
「うん、大丈夫だよ。私はずうっと」

__フータ君のとなりにいるよ。

※ダブルクリック(2回タップ)してください

2024/05/20 21:30

夢野 シオン@水野志恩SS ID:≫7tLEh4qnMjetA
小説を編集
/ 1

この小説はコメントオフに設定されています

小説通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

※できるだけ具体的に記入してください。
特に盗作投稿については、どういった部分が元作品と類似しているかを具体的にお伝え下さい。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL