雨隠れ
傘木side
「──はぁっ、はぁっ……くぅぅ」
[漢字]傘木[/漢字][ふりがな]かさき[/ふりがな]は、校門前で息を切らして立ち止まっていた。
[漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]あませ[/ふりがな]に逃げられ、もちろん悔しいのだが、1つ[漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]調査対象[/ふりがな]について重大なことが明らかになったのは前進だった。
──雨瀬はあり得ないほど足が速い。
[水平線]
これ以上の追跡は不可能と判断した傘木は、諦めて帰宅することにした。
家の方向へ足を運ぶ。
しかし謎だ。
雨瀬について新たに、足が速いということが判明したわけだが、それが傘木の思考をより難解なものにした。
傘木はクラスにおいて、足の速さは上位の方だ。しかし雨瀬はそれを遥かに凌駕した。
そうであるなら、体育祭なんかで雨瀬が活躍していてもおかしくないはずだ。
圧倒的な身体能力を学校行事で見せつけようもんなら、女子にモテるのは確実不可避。
たが実際、彼はモテるどころか一切の気配を消して学校生活を送っている。
「……意味不明だ」
思わず声に出た。周りに誰もいなくて助かった。
傘木が雨瀬の立場なら、間違いなくモテるために大活躍の努力を惜しまないだろう。
──雨瀬は目立ちたくないだけなのか?
思い耽っていたら、いつのまにか横断歩道を渡っていて、飲食店が軒を連ねる通りに来ていた。
ただ何の感情もなく、通り過ぎる店の窓や看板を眺める。
傘木はそもそも、なぜこんなにも雨瀬のことが気になるのかがわからなかった。
今まで特に関わりもなかったのに、突然"実態調査"なんて始めるほど気になってしまっている。
どんどん積み重なる謎から逃れるように視線を泳がせた。
ふと、今まさに通り過ぎようとしている店の窓が目に入った。妙に古い喫茶店だ。
窓に面した角のテーブル席に、ヤツがいた。
「っ!? アイツ……!!」
咄嗟に身を屈めた。そこに座っているのは、雨瀬である。
と思えばもう1人いる。なんだか見覚えがあるような気もするが、茶色っぽいふわふわな髪をした男子高校生だ。
2人は何やら楽しげに会話を交わしている。
……楽しげに!?
[水平線]
またさらに数日が経った朝。
「うぅ……わからねぇ」
傘木は頭を抱えていた。
雨瀬は何を考えているのか。
どうしてこんなに雨瀬のことが気になるのか。
数日前、雨瀬と仲睦まじく話していたのは誰なのか。
「どうしたんだよ元気ねーなー」「また傘木が変だ」「カサちゃん悩んでる〜」
いつもつるんでいる男子たちが寄ってきて、傘木の悩みなどつゆ知らず、冷やかしてくる。
「いっ、いやぁ、何でもねぇんだけどよ」
まさか聞かれているとは思わず、傘木は慌てて誤魔化した。
傘木が雨瀬の実態調査をしているということは、誰も知らない。
「ってか(関係ない)、この前の小テストまじ悲惨だったわ」「俺も俺も!」「なんか問題多くなかった?」「あれ50点満点だろ?」
「マジか」「そんなの小テストじゃねーよな」
傘木はその会話には入らず、ぼんやりと考えていた。
──雨瀬、頭はいいのか?
今日も雨瀬は誰とも話す気はないらしく、無言で何かを読んでいた。
「おーい席につけ〜」
チャイムが鳴ると同時に、情けないひょろひょろの声を頑張ってあげながら、男性の担任教師が入ってきた。ホームルームが始まる。
「今日は〜席替えをします」
担任の一言は教室を熱狂の渦に巻き込んだ。
雨瀬の方をちらっと見たが、雨瀬は全く微動だにせず、表情もまるで変わらなかった。
傘木のクラスは席替えをくじ引きで決める。
傘木が引いたのは4番。1番廊下側の、後ろから2番目の席だ。
全員が席を移動し始めた。傘木も移動し終わって、雨瀬の動向を確認する。
すると、机をだるそうに引きずっていた雨瀬が目を見開いて硬直した。
「げっ」とでも言うような、珍しく露骨に嫌そうな顔。
まさか。
雨瀬はゆっくりと、傘木の真後ろに机を持ってきた。
──これは千載一遇のチャンス!!!!
「よろしくなっ!」
傘木はすかさず新たな"ご近所さん"に挨拶した。
「……どーも」
雨瀬の表情は険しい。
一方、傘木の頬はしばらく緩んでいた。
「──はぁっ、はぁっ……くぅぅ」
[漢字]傘木[/漢字][ふりがな]かさき[/ふりがな]は、校門前で息を切らして立ち止まっていた。
[漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]あませ[/ふりがな]に逃げられ、もちろん悔しいのだが、1つ[漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]調査対象[/ふりがな]について重大なことが明らかになったのは前進だった。
──雨瀬はあり得ないほど足が速い。
[水平線]
これ以上の追跡は不可能と判断した傘木は、諦めて帰宅することにした。
家の方向へ足を運ぶ。
しかし謎だ。
雨瀬について新たに、足が速いということが判明したわけだが、それが傘木の思考をより難解なものにした。
傘木はクラスにおいて、足の速さは上位の方だ。しかし雨瀬はそれを遥かに凌駕した。
そうであるなら、体育祭なんかで雨瀬が活躍していてもおかしくないはずだ。
圧倒的な身体能力を学校行事で見せつけようもんなら、女子にモテるのは確実不可避。
たが実際、彼はモテるどころか一切の気配を消して学校生活を送っている。
「……意味不明だ」
思わず声に出た。周りに誰もいなくて助かった。
傘木が雨瀬の立場なら、間違いなくモテるために大活躍の努力を惜しまないだろう。
──雨瀬は目立ちたくないだけなのか?
思い耽っていたら、いつのまにか横断歩道を渡っていて、飲食店が軒を連ねる通りに来ていた。
ただ何の感情もなく、通り過ぎる店の窓や看板を眺める。
傘木はそもそも、なぜこんなにも雨瀬のことが気になるのかがわからなかった。
今まで特に関わりもなかったのに、突然"実態調査"なんて始めるほど気になってしまっている。
どんどん積み重なる謎から逃れるように視線を泳がせた。
ふと、今まさに通り過ぎようとしている店の窓が目に入った。妙に古い喫茶店だ。
窓に面した角のテーブル席に、ヤツがいた。
「っ!? アイツ……!!」
咄嗟に身を屈めた。そこに座っているのは、雨瀬である。
と思えばもう1人いる。なんだか見覚えがあるような気もするが、茶色っぽいふわふわな髪をした男子高校生だ。
2人は何やら楽しげに会話を交わしている。
……楽しげに!?
[水平線]
またさらに数日が経った朝。
「うぅ……わからねぇ」
傘木は頭を抱えていた。
雨瀬は何を考えているのか。
どうしてこんなに雨瀬のことが気になるのか。
数日前、雨瀬と仲睦まじく話していたのは誰なのか。
「どうしたんだよ元気ねーなー」「また傘木が変だ」「カサちゃん悩んでる〜」
いつもつるんでいる男子たちが寄ってきて、傘木の悩みなどつゆ知らず、冷やかしてくる。
「いっ、いやぁ、何でもねぇんだけどよ」
まさか聞かれているとは思わず、傘木は慌てて誤魔化した。
傘木が雨瀬の実態調査をしているということは、誰も知らない。
「ってか(関係ない)、この前の小テストまじ悲惨だったわ」「俺も俺も!」「なんか問題多くなかった?」「あれ50点満点だろ?」
「マジか」「そんなの小テストじゃねーよな」
傘木はその会話には入らず、ぼんやりと考えていた。
──雨瀬、頭はいいのか?
今日も雨瀬は誰とも話す気はないらしく、無言で何かを読んでいた。
「おーい席につけ〜」
チャイムが鳴ると同時に、情けないひょろひょろの声を頑張ってあげながら、男性の担任教師が入ってきた。ホームルームが始まる。
「今日は〜席替えをします」
担任の一言は教室を熱狂の渦に巻き込んだ。
雨瀬の方をちらっと見たが、雨瀬は全く微動だにせず、表情もまるで変わらなかった。
傘木のクラスは席替えをくじ引きで決める。
傘木が引いたのは4番。1番廊下側の、後ろから2番目の席だ。
全員が席を移動し始めた。傘木も移動し終わって、雨瀬の動向を確認する。
すると、机をだるそうに引きずっていた雨瀬が目を見開いて硬直した。
「げっ」とでも言うような、珍しく露骨に嫌そうな顔。
まさか。
雨瀬はゆっくりと、傘木の真後ろに机を持ってきた。
──これは千載一遇のチャンス!!!!
「よろしくなっ!」
傘木はすかさず新たな"ご近所さん"に挨拶した。
「……どーも」
雨瀬の表情は険しい。
一方、傘木の頬はしばらく緩んでいた。