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雨隠れ

#5

傘木の苦悩

傘木side

「──はぁっ、はぁっ……くぅぅ」

 [漢字]傘木[/漢字][ふりがな]かさき[/ふりがな]は、校門前で息を切らして立ち止まっていた。

 [漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]あませ[/ふりがな]に逃げられ、もちろん悔しいのだが、1つ[漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]調査対象[/ふりがな]について重大なことが明らかになったのは前進だった。

 ──雨瀬はあり得ないほど足が速い。

[水平線]

 これ以上の追跡は不可能と判断した傘木は、諦めて帰宅することにした。

 家の方向へ足を運ぶ。

 しかし謎だ。

 雨瀬について新たに、足が速いということが判明したわけだが、それが傘木の思考をより難解なものにした。

 傘木はクラスにおいて、足の速さは上位の方だ。しかし雨瀬はそれを遥かに凌駕した。

 そうであるなら、体育祭なんかで雨瀬が活躍していてもおかしくないはずだ。

 圧倒的な身体能力を学校行事で見せつけようもんなら、女子にモテるのは確実不可避。

 たが実際、彼はモテるどころか一切の気配を消して学校生活を送っている。

「……意味不明だ」

 思わず声に出た。周りに誰もいなくて助かった。

 傘木が雨瀬の立場なら、間違いなくモテるために大活躍の努力を惜しまないだろう。

 ──雨瀬は目立ちたくないだけなのか?

 思い耽っていたら、いつのまにか横断歩道を渡っていて、飲食店が軒を連ねる通りに来ていた。

 ただ何の感情もなく、通り過ぎる店の窓や看板を眺める。

 傘木はそもそも、なぜこんなにも雨瀬のことが気になるのかがわからなかった。

 今まで特に関わりもなかったのに、突然"実態調査"なんて始めるほど気になってしまっている。
 
 どんどん積み重なる謎から逃れるように視線を泳がせた。

 ふと、今まさに通り過ぎようとしている店の窓が目に入った。妙に古い喫茶店だ。

 窓に面した角のテーブル席に、ヤツがいた。

「っ!? アイツ……!!」

 咄嗟に身を屈めた。そこに座っているのは、雨瀬である。

 と思えばもう1人いる。なんだか見覚えがあるような気もするが、茶色っぽいふわふわな髪をした男子高校生だ。

 2人は何やら楽しげに会話を交わしている。

 ……楽しげに!?

[水平線]

 またさらに数日が経った朝。

「うぅ……わからねぇ」

 傘木は頭を抱えていた。

 雨瀬は何を考えているのか。

 どうしてこんなに雨瀬のことが気になるのか。

 数日前、雨瀬と仲睦まじく話していたのは誰なのか。

「どうしたんだよ元気ねーなー」「また傘木が変だ」「カサちゃん悩んでる〜」

 いつもつるんでいる男子たちが寄ってきて、傘木の悩みなどつゆ知らず、冷やかしてくる。

「いっ、いやぁ、何でもねぇんだけどよ」

 まさか聞かれているとは思わず、傘木は慌てて誤魔化した。

 傘木が雨瀬の実態調査をしているということは、誰も知らない。

「ってか(関係ない)、この前の小テストまじ悲惨だったわ」「俺も俺も!」「なんか問題多くなかった?」「あれ50点満点だろ?」
「マジか」「そんなの小テストじゃねーよな」

 傘木はその会話には入らず、ぼんやりと考えていた。

 ──雨瀬、頭はいいのか?

 今日も雨瀬は誰とも話す気はないらしく、無言で何かを読んでいた。

「おーい席につけ〜」

 チャイムが鳴ると同時に、情けないひょろひょろの声を頑張ってあげながら、男性の担任教師が入ってきた。ホームルームが始まる。

「今日は〜席替えをします」

 担任の一言は教室を熱狂の渦に巻き込んだ。

 雨瀬の方をちらっと見たが、雨瀬は全く微動だにせず、表情もまるで変わらなかった。

 傘木のクラスは席替えをくじ引きで決める。

 傘木が引いたのは4番。1番廊下側の、後ろから2番目の席だ。

 全員が席を移動し始めた。傘木も移動し終わって、雨瀬の動向を確認する。

 すると、机をだるそうに引きずっていた雨瀬が目を見開いて硬直した。

 「げっ」とでも言うような、珍しく露骨に嫌そうな顔。

 まさか。

 雨瀬はゆっくりと、傘木の真後ろに机を持ってきた。

 ──これは千載一遇のチャンス!!!!

「よろしくなっ!」

 傘木はすかさず新たな"ご近所さん"に挨拶した。

「……どーも」

 雨瀬の表情は険しい。

 一方、傘木の頬はしばらく緩んでいた。

 

作者メッセージ

ほぼ10ヶ月ぶり……!?
どうも夜桜瑠璃乃です。ほんとにお久しぶりすぎて。
書きたくなったので来ました。自由ですみません。
今回は傘木くんが悩む話でした。雲井くんも見つけちゃいましたね〜
これからどうなっちゃうんでしょう。私にもわかりません((
また続きはいつか出すはずなので、本当に覚えていたらまた読んでくださると嬉しいです!
良き夜をお過ごしください!(今、午前3時半…!)

読んでくださってありがとうございましたー!

2024/12/30 03:34

夜桜 瑠璃乃 ID:≫rpbOJ8R7FU6TM
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