雨隠れ
[明朝体]雨瀬side
数日後。
[漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]あませ[/ふりがな]は、今日も至って何事もなく、注目も関心も集めることなく、1日を終えた。
これは、不本意ながら誰かさんに"[漢字]猫との戯れ[/漢字][ふりがな]あんなところ[/ふりがな]"を目撃されたあの日より、随分と平凡に思える。
まあ、あの日は例外で、基本的に雨瀬は「誰からも求められず、存在を認められずに過ごす」というのが人生のモットーである。それ故、雨瀬には1人として親しい友人などいないのだ。
なぜこんな生き方になったのか……と、それを話すと長くなるため、今回は省く。
──って俺、誰に言ってんだ?
[水平線]
また今日も、授業終了のチャイムが校内を反響する。
やっと終わったか。雨瀬は吐き捨てるようにため息をついて、早々と帰宅の用意に移った。
しかし、その形相といったら、まあ怖いこと この上ない。[漢字]纏[/漢字][ふりがな]まと[/ふりがな]う闇のような雰囲気、鋭い目、への字の口、微動だにしない眉、鞄に荷物を詰める少々雑な手つき。
どう見ても不機嫌そうな雨瀬だが、実は別に怒ってなどいない。
雨瀬の脳内では、猫たちがニャンニャン寄ってたかり、鳥たちがピャーピャーさえずり飛び回り、そして犬たちがワォンワォン元気に走りまくっている。要するに、雨瀬の脳内は至って平穏で、カオスなのだ。
とにかく早く、体育館裏の動物たちに会いたくて仕方がない。雨瀬の[漢字]逸[/漢字][ふりがな]はや[/ふりがな]る気持ちが高まる(が表情には出ない)。
用意ができた雨瀬は、もはや駆け出すように教室を飛び出す──はずだった。
「───あっ! おいッ、ちょっと待ってくれッ!」
「っ⁉︎」
次の瞬間、何者かに腕を強く引っ張られ、そのままの勢いで雨瀬は教室に引き戻された。後方へ倒れかけるが、何とか足の力で耐える。
突然の騒動に、騒がしかった教室は一気に静寂に包まれ、注目は一斉に雨瀬に集中した。
「…………?」
しかし何が起きたのか判らない雨瀬は、きょとんとするしかなかった。[漢字]徐[/漢字][ふりがな]おもむろ[/ふりがな]に振り向くと、教室からの脱出を阻めた張本人がそこにいた。
「──!」
アイツだった。
「か……カサギ……?」
うろ覚えの名前を口にすると、ソイツは顔をしかめて、一言。「カサ[太字]キ[/太字]、な」
クソ、外れた──って、いやいやそんな事はどうでもいいんだよ。
雨瀬の全て(?)を妨害した彼こそ、あの時の"誰かさん"、[漢字]傘木[/漢字][ふりがな]かさき[/ふりがな]だった。雨瀬が絶対に遭遇も衝突もしたくなかった人堂々の第1位である。
──絶対この前のこと掘り返す気だろコイツ……!
雨瀬は、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた。
しかしそれより前に、傘木が逃さないとばかりに質問をぶつける。
「またあそこいくんだろ⁉︎ あの猫とか鳥とかに会いに行くんだろッ⁉︎」
まんまと質問を投げつけられた雨瀬は、傘木の気迫に思わず後ずさり。何とかこの場を[漢字]凌[/漢字][ふりがな]しの[/ふりがな]ごうと、必死に取り繕う。
「あ、あー……あそこって、どこのこ──」
「体育館裏」
即答されてしまえば後はない。傘木は、自分より背の高い雨瀬の顔を見上げ、懇願の眼差しを向けた。
「頼むッ! 俺もあの猫とか鳥とか見たいんだよ!」
──上目遣いされても堕ちねぇからな。
傘木が手を合わせた瞬間、雨瀬はバッと踵を返し教室を飛び出した。
「……あああぁぁぁぁッ!」
数秒経ち、獲物を逃したことに気付いた傘木は、悔しさ任せに叫び、ドアから廊下へ飛び出した。
「逃すかぁ──────ッ!」
一方、彼らの言動を全く理解できないクラスメイトたちは、ただ無言で傘木が飛び出したドアを見つめるのであった。
[水平線]
──あー、今日は行けないな。
雨瀬は、よく言えば閑静、言ってしまえば何の特徴もない住宅街を歩いていた。
結局、傘木から逃れた雨瀬は、動物たちに会うことを断念し、帰路についていた。もちろん、唯一のモチベーションである動物たちに会えなかった雨瀬は不満げである。
そんな、明らかに険悪な雰囲気ダダ漏れな雨瀬に近寄る、黒い影があった。
トントントン、と雨瀬の背後に響く足音は、徐々にボリュームを増す。
「…………[小文字]はぁ[/小文字]……」
悟ってしまった雨瀬は、[漢字]億劫[/漢字][ふりがな]おっくう[/ふりがな]にため息をつくしかない。
──俺、もう運は使い果たしたのか?
自分の悪運を憎みつつ、雨瀬は振り向いた。
[/明朝体]
数日後。
[漢字]雨瀬[/漢字][ふりがな]あませ[/ふりがな]は、今日も至って何事もなく、注目も関心も集めることなく、1日を終えた。
これは、不本意ながら誰かさんに"[漢字]猫との戯れ[/漢字][ふりがな]あんなところ[/ふりがな]"を目撃されたあの日より、随分と平凡に思える。
まあ、あの日は例外で、基本的に雨瀬は「誰からも求められず、存在を認められずに過ごす」というのが人生のモットーである。それ故、雨瀬には1人として親しい友人などいないのだ。
なぜこんな生き方になったのか……と、それを話すと長くなるため、今回は省く。
──って俺、誰に言ってんだ?
[水平線]
また今日も、授業終了のチャイムが校内を反響する。
やっと終わったか。雨瀬は吐き捨てるようにため息をついて、早々と帰宅の用意に移った。
しかし、その形相といったら、まあ怖いこと この上ない。[漢字]纏[/漢字][ふりがな]まと[/ふりがな]う闇のような雰囲気、鋭い目、への字の口、微動だにしない眉、鞄に荷物を詰める少々雑な手つき。
どう見ても不機嫌そうな雨瀬だが、実は別に怒ってなどいない。
雨瀬の脳内では、猫たちがニャンニャン寄ってたかり、鳥たちがピャーピャーさえずり飛び回り、そして犬たちがワォンワォン元気に走りまくっている。要するに、雨瀬の脳内は至って平穏で、カオスなのだ。
とにかく早く、体育館裏の動物たちに会いたくて仕方がない。雨瀬の[漢字]逸[/漢字][ふりがな]はや[/ふりがな]る気持ちが高まる(が表情には出ない)。
用意ができた雨瀬は、もはや駆け出すように教室を飛び出す──はずだった。
「───あっ! おいッ、ちょっと待ってくれッ!」
「っ⁉︎」
次の瞬間、何者かに腕を強く引っ張られ、そのままの勢いで雨瀬は教室に引き戻された。後方へ倒れかけるが、何とか足の力で耐える。
突然の騒動に、騒がしかった教室は一気に静寂に包まれ、注目は一斉に雨瀬に集中した。
「…………?」
しかし何が起きたのか判らない雨瀬は、きょとんとするしかなかった。[漢字]徐[/漢字][ふりがな]おもむろ[/ふりがな]に振り向くと、教室からの脱出を阻めた張本人がそこにいた。
「──!」
アイツだった。
「か……カサギ……?」
うろ覚えの名前を口にすると、ソイツは顔をしかめて、一言。「カサ[太字]キ[/太字]、な」
クソ、外れた──って、いやいやそんな事はどうでもいいんだよ。
雨瀬の全て(?)を妨害した彼こそ、あの時の"誰かさん"、[漢字]傘木[/漢字][ふりがな]かさき[/ふりがな]だった。雨瀬が絶対に遭遇も衝突もしたくなかった人堂々の第1位である。
──絶対この前のこと掘り返す気だろコイツ……!
雨瀬は、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた。
しかしそれより前に、傘木が逃さないとばかりに質問をぶつける。
「またあそこいくんだろ⁉︎ あの猫とか鳥とかに会いに行くんだろッ⁉︎」
まんまと質問を投げつけられた雨瀬は、傘木の気迫に思わず後ずさり。何とかこの場を[漢字]凌[/漢字][ふりがな]しの[/ふりがな]ごうと、必死に取り繕う。
「あ、あー……あそこって、どこのこ──」
「体育館裏」
即答されてしまえば後はない。傘木は、自分より背の高い雨瀬の顔を見上げ、懇願の眼差しを向けた。
「頼むッ! 俺もあの猫とか鳥とか見たいんだよ!」
──上目遣いされても堕ちねぇからな。
傘木が手を合わせた瞬間、雨瀬はバッと踵を返し教室を飛び出した。
「……あああぁぁぁぁッ!」
数秒経ち、獲物を逃したことに気付いた傘木は、悔しさ任せに叫び、ドアから廊下へ飛び出した。
「逃すかぁ──────ッ!」
一方、彼らの言動を全く理解できないクラスメイトたちは、ただ無言で傘木が飛び出したドアを見つめるのであった。
[水平線]
──あー、今日は行けないな。
雨瀬は、よく言えば閑静、言ってしまえば何の特徴もない住宅街を歩いていた。
結局、傘木から逃れた雨瀬は、動物たちに会うことを断念し、帰路についていた。もちろん、唯一のモチベーションである動物たちに会えなかった雨瀬は不満げである。
そんな、明らかに険悪な雰囲気ダダ漏れな雨瀬に近寄る、黒い影があった。
トントントン、と雨瀬の背後に響く足音は、徐々にボリュームを増す。
「…………[小文字]はぁ[/小文字]……」
悟ってしまった雨瀬は、[漢字]億劫[/漢字][ふりがな]おっくう[/ふりがな]にため息をつくしかない。
──俺、もう運は使い果たしたのか?
自分の悪運を憎みつつ、雨瀬は振り向いた。
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